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「石川酒造」と「都立滝山公園」

2022.9.30 COLUMN

地酒「多満自慢」などで知られる、東京都の酒蔵「石川酒造」は、近年、「多摩の恵」「TOKYO BLUES」といったブランドのクラフトビール作りにも力を入れている。

老舗酒造が作るクラフトビール

この日、東京出身の酒好きでありながら、今まで「石川酒造」の酒蔵を訪れたことがなかったことを恥じた。

初めて訪れた石川酒造は、もちろん見学のできる酒蔵あり、資料館あり、イタリアンレストラン「福生のビール小屋」あり、直売店の「酒世羅」あり。そしてなにより、遊びに来た人々が自由に過ごせる広々とした庭園スペースありで、まるでお酒のテーマパーク! 正直、酒好きならばここに1日いられるほどにエンターテイメント性の高い酒蔵だったのだ。

僕にビールを注いでくれたのは、石川酒造のビール醸造部門を任される若きブルワー、土屋さん。今日は土屋さんにお話を伺いつつ、蔵からは多摩川を渡った場所にある「都立滝山公園」でチェアリングをしようというコースだ。

福生のビール小屋では、できたてのクラフトビールが提供されている。
というわけで、今日もチェアリング前に飲んでしまう。

パリッコ:土屋さんは、そもそもどのような経緯でこの道に?

土屋さん:話は高校時代にまでさかのぼるんですが、僕が通っていた高校は、理系が「化学」「生物」「物理」の三択だったんですね。僕はそこで化学を選択して、勉強したんです。すると次第にそういう世界に興味が湧いてきて、そのまま分析化学の専門学校に通うことを決めました。そこで初めて学んだのが「微生物学」。そうしたら、微生物学と、僕が高校時代に学んだ化学の関係が、意外にも深いことがわかって。

パリッコ:具体的にはどのように?

土屋さん:たとえばお酒作りの話ですと、微生物が糖分を食べ、アルコールと二酸化炭素を作り出す。そういう反応が、僕の場合、化学記号で頭のなかにばーっと浮かんでくるんです。

パリッコ:それはおもしろいですね! では、卒業後、すぐに石川酒造さんに?

土屋さん:そうなんです。学校側からの推薦という形で。実際にたずさわってみて、ここまで奥深い世界だったのかと驚きましたね。

パリッコ:こちらでは、日本酒造りなども一通り学ばれたんですか?

土屋さん:いえ。ちょうど弊社が、お酒づくりの幅を広げようとしていた時期に入社したので、僕はずっとビール一本ですね。といっても、ビール作り自体は1998年から始まっていたんですが、クラフトビールブームもあり、その部門を強化しようと。近年はどんどん生産量が上がっていて、本当にビール人気を実感しています。入社当時は、こんなに忙しくなるとは思っていなかったくらい(笑)。

日本酒蔵ならではのクラフトビールを目指し

なにもない、だだっ広い風景に心が浄化される
「多摩の恵 ペールエール」で乾杯!

石川酒造の「多摩の恵 ペールエール」は、柑橘系の香りが特徴のアメリカ産「カスケードホップ」を使用したアメリカンスタイルのビール。ホップの爽やかさと麦芽のモルティー感、その両方がしっかりと味わえる、飲みごたえのある味わいだ。

パリッコ:いや〜、この広大な景色を眺めながら、深い味わいのビールをじっくり飲む。ものすごく贅沢な時間ですね……。ちなみに、石川酒造さんでは他にどのようなタイプのビールを作られているんですか?

土屋さん:はい。「多摩の恵」というブランドで3種類、「TOKYO BLUES」というブランドで4種類。この7種類が定番となっています。多摩の恵は、今飲んでいただいている「ペールエール」と、日本では最もポピュラーな黄金色の「ピルスナー」、それから黒ビールの「デュンケル」の3種類が基本。ですがその他に、小麦を使った白いビールの「ヴァイツェン」ですとか、フルーツビールの「ブルーベリーエール」など、季節ごとの限定品もいろいろとつくっています。

パリッコ:季節ごとに様々なビールを楽しめるのはいいですね!

土屋さん:ありがとうございます。また、弊社のビールの特徴として、よくビール好きの方やブルワリーの方にいただくのが、「飲みごたえがある」というご感想。日本酒だけでなく、ビールにも、軽やかというよりはどっしりとした味わいが出てくるのは、日本酒蔵が作るビールの特徴なんですね。もちろんどれも、食中酒としても合うようつくっていて、比較的軽やかな味わいのものもありますが、どれもじっくりと味わえるというのが、弊社のビールの魅力かもしれません。

パリッコ:ところで土屋さんは、やっぱり日本酒もお好きなんですか?

土屋さん:それが僕、日本酒の「吟醸香」が苦手で……。

パリッコ:え! では、日本酒はあまり飲まれない?

土屋さん:実は(笑)。だから、年明けの乾杯などの行事が、なかなかハードル高くて……。

パリッコ:まさに、ビールのために石川酒造さんに入社された男だったんですね(笑)。

土屋さん:もちろん、仕事で日本酒のテイスティングをすることもあります。むしろ苦手なだけに味がよくわかったりもするので、それはそれでいいことなんです。ただ、ビールって、喉ごしも味の大きな要素じゃないですか。だから試飲会に行ったら、百何十種類ものビールを、ぐいっと飲まなければいけない。それが苦でないという意味では、ビール作りに向いていたのかもしれません。

写真左から)「多摩の恵」の「ペールエール」 「ピルスナー」 「デュンケル」

 


ブルワリー
石川酒造 直売店 酒世羅
住所:東京都福生市熊川1番地
電話:042-530-5792
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜(12月は無休)

チェアリングスポット
都立滝山公園
住所:東京都八王子市高月町~丹木町2、3丁目
営業時間:常時開園