TABA – TAMAGAWA ALL BREWERIES ALLIANCE

「坂道ブルイング」と「根川緑道」

2022.11.28 COLUMN

イギリス出身のマシューさんとアメリカ出身のダニエルさんが共同で運営する「坂道ブルイング」。ふたりはどうして出会い、そしてどうして立川でブルワリーを始めたのか? オリジナルのビールを飲みながら、チェアリングしながら、お話を聞いた。

きっかけは共通の趣味、サイクルツーリング

今回主にお話を聞かせてくれたのは、イギリス出身のマシューさん。ビールのことはもちろん、気になることがたくさんありすぎ、思わず前のめりになってお話を伺う。

創業者のひとり、マシューさん
店内ではゲストタップも含め8種類の生ビールが飲める店内ではゲストタップも含め8種類の生ビールが飲める

パリッコ:マシューさんはイギリスのご出身だそうですが、どうして日本でブルワリーを?

マシューさん:僕は、英語教師として働くために15年前くらいに日本に来ました。10年くらい働きましたが、その教室がなくなってしまうことになり、ちょっと仕事をチェンジしたい気持ちもあって、5年前くらいから静岡の「ベアード ブルーイング」、そのあと、この近くの「石川酒造」のビール部門で働きました。そして2020年、独立して自分のブルワリー「坂道ブルイング」を作りました。

パリッコ:立川という街を選ばれた理由は?

マシューさん:ずっと前から、この近くの国立に住んでいます。立川にはいろんなバーやレストランがあるけど、クラフトビールの醸造所はなかったので、チャンスがあるなと思いました。

パリッコ:日本のクラフトビールの印象はどういったものでしょう?

マシューさん:日本人は材料にすごくリスペクトがありますね。全国に美味しいクラフトビールがたくさんあります。ビールは基本的にシンプルな材料で作るもの。日本の水は美味しいから、美味しいビールが作れます。

パリッコ:ところで、共同経営されているというアメリカ人のダニエルさんとの出会いの経緯も気になります。

マシューさん:創業者は、僕とダニエルさんですね。我々が出会ったのは、サイクルツーリングという同じ趣味がきっかけでした。だから、お店のなかにもあちこちに「シークレット自転車」が隠してあります。ディズニーランドみたいでしょう?(笑)

パリッコ:本当だ! お店のロゴや店名もそこから来ていたんですね。

マシューさん:そうですね。自転車で坂道を登ったり下ったりするのが好きなので。あともうひとつの意味は、新しいブルワリーを作るというのも、けっこう険しい道だと思ったので。

パリッコ:二重の意味まで込められていたとは。

マシューさん:ダニエルさんとはサイクルツーリングで、四国にも、九州にも、北海道にも行きまして、あちこちで美味しい日本のクラフトビールを飲みました。そういう経験も、お店作りのためになっています。

パリッコ:坂道ブルイングのビール作りにおいて意識されていることは?

マシューさん:まずは立川でクラフトビールのカルチャーを広めるため、初心者にも楽しみやすいビールを作りたいと思いました。英語で言えば“drinkable”。クラフトビールなんだけど、飲みやすいビールですね。今、うちのオリジナルビールは3種類です。「Shibasaki Session」は最初に作ったビール。ここは柴崎町という地名ですから。アルコール度数はそんなに高くないSession IPAというスタイルですが、イギリスですごく歴史のある「Marris Otter」という麦芽を使った、いろいろなキャラクターのあるビールだと思います。酵母はノルウェー産のもの、ホップはアメリカ産のもの。

パリッコ:このお店のイメージにぴったりの、ワールドワイドな原料を使ったビールなんですね。

マシューさん:そうですね。そして、もちろん、日本の美味しい水。それから、最近日本ではいちばん人気があるかもしれないヘイジー系のIPA「Haze Craze:Tropical Crush」。トロピカルジュースっぽい香りの出るホップを使っています。最後は「One Night in Tokyo」。これは日本のゆずを使ったサワーエールですね。

パリッコ:ネーミングもまたいいですね。

マシューさん:これはちょっとおもしろい話で、2ヶ月前くらいに、アメリカ東海岸の「The Virginia Beer Company」の、タップテイクオーバー(※)がありました。「One Night in 〇〇」というのは、Virginia Beerにあるシリーズなんですね。たとえば「One Night in Geogia」なら桃、「One Night in Maine」ならブルーベリーを使ったサワーエール。そちらとのコラボレーションとして作ったビールで、僕たちのアイデアは、日本らしいフルーツということで、ゆずを使ったビール。なのでこのビールは、立川とバージニアで飲めるということですね。

※直訳すると「ビールの注ぎ口を乗っとる」。通常はいろいろなブルワリーのビールを提供しているビアバーで、特定のブルワリーだけのビールを出すイベントのこと。

パリッコ:それはまた貴重な!

バージニアと立川のコラボは、ありそうでなかった美味しさ!

パリッコ:こちらはお店のシステムもシンプルですね。おつまみはナッツしかなくて、食べ物は持ち込み自由という。

マシューさん:立川はいろんなお店がありますから、そこで食べ物を買ってきてもらって、ビールを楽しんでもらう。うちの独自の商品はビールのみです。

パリッコ:立川は、マシューさんにとってどういう街ですか?

マシューさん:おもしろい街ですね。半分は東京のベッドタウン。ただ、反対側に行くと、山がすぐそこです。僕とダニエルさんは今も自転車が大好き。なので、多摩川のサイクリングコースとか、高尾山とかに休みの日にチャンスがあれば行きます。とても気持ちいい場所ですよね。。一部のお客さんは、サイクルツーリングや山登りの帰り道に、ここでビールを飲んでくれたり。

パリッコ:それは美味しいでしょうね〜!

地元民のみが知る、穴場のチェアリングスポットへ

それでは今日も、マシューさんとチェアリングに出かけよう。

店内の冷蔵庫には世界各国のクラフトビールが並んでおり、どれも飲んでみたくなる。が、ここは坂道ブルイングオリジナル、かつ最初に作ったビールだという「Shibasaki Session」と「Haze Craze」をチョイス!

思わず、おみやげ用に数種類のビールも購入

今日のチェアリングスポットは、お店から徒歩15分ほどの「根川緑道」。到着してみると、住宅街のなかにある小さなせせらぎで、なるほど、のんびりとチェアリングをするにはぴったりの場所だ。

しかしマシューさん、「この先にとてもいい場所がありますから」と、さらにずんずん歩いてゆく。途中、ここも、ここも、スポットとしてはいいのにな……なんて思いながらもついてゆくと、突然視界がふわっと開け、静かな水面のまわりに芝生の広がる、なんとも楽園のような場所にたどり着いた。

さすがは、自転車で街を走りつくしているマシューさん。

オリジナルビールで乾杯!
街の喧騒から切り離されたようなスポットだ
春は桜も咲くらしい。そのころにまたやってこよう

あまりにも心地よく、また、マシューさんの温かい人がらもあり、ついつい取材であることを忘れ、小一時間ものんびりとお話をさせてもらった。

すぐうしろにあるブルワリーで作られたビールを飲みつつ、流れる水面を眺めながらゆったりとチェアリング。やっぱり、どこまでも贅沢なお酒の楽しみかただな、これは。


ブルワリー
坂道ブルイング
東京都立川市柴崎町2-6-5
営業時間:2:00~21:00(月~木)、12:00~22:00(金〜日・祝)

チェアリングスポット
根川緑道(東京都立川市柴崎町4丁目、6丁目、錦町5丁目周辺)